BUSINESS新しい“当たり前”を創造する
~「ATM受取(現金受取サービス)」開発プロジェクト~

PROLOGUE

それは小さな思いつきから始まった

2018年5月、「ATM受取(現金受取サービス)」がスタートした。口座不要で現金受取りが可能になるというこの画期的なサービスは、ある社員のふとした“思いつき”がその起点となった。ネット通販が日常的なものとなりつつある中、不良品を返品した場合の“返金”はどうすればいいのか、という素朴な疑問が浮かんだのである。
「法人→個人」の送金には、銀行口座確認の手間や個人情報を預かるリスクなど、さまざまな不都合が生じる。セブン銀行のATMを使って「法人→個人」の送金が行えれば、返金業務も簡単にできるのではないか、というのがその“思いつき”だった。
このアイデアの提案を受けた経営陣は「こういうものを待っていたんだ!」と身を乗り出した。そして「ATM受取(現金受取サービス)」開発プロジェクトが2015年にスタートしたのである。

  • 和田 哲士
  • PROFILE

    和田 哲士WADA SATOSHI

    株式会社セブン・ペイメントサービス代表取締役社長

    メガバンク、大手生保を経て、2012年にセブン銀行に入社。コンビニエンスストアを活用した金融サービスに大きな可能性を感じ、既存の銀行ではできないサービスに挑戦したいとの想いで転職する。2018年1月に現職へ就任。週末は気分転換も兼ねて、キッチンに立つ。得意料理はパスタ。趣味は旅行で、毎年家族でハワイへの旅を楽しんでいる。

時代の変化をとらえる

「ATM受取(現金受取サービス)」は、企業から個人へお金を送ることができる送金サービス。メールなどでお金の受取りに必要な情報を受取った個人は、セブン銀行のATMを操作することで紙幣を受取ることができる。また、硬貨はセブン‐イレブンのレジでの受取り、電子マネーへのチャージ、募金の中から選択できる。本サービスは24時間365日、セブン銀行のATMで利用できる。全国のセブン‐イレブンなどでATMを運営しているセブン銀行だからこそ実現可能な利便性だ。
これまで企業から個人へのお金の流れは、不良品の返品に伴う異例処理という位置づけだったため、銀行振込、現金書留という従来からの手続きが中心だった。しかしeコマースの普及やシェアリングエコノミーの広がりなどによって、企業から個人への送金機会が増加する中、簡単・便利に現金を受取れる送金サービスへのニーズは高まってきている。それに応える新たなサービスとして、「ATM受取(現金受取サービス)」は大きな可能性を秘めている。

  • プロジェクトストーリー
  • プロジェクトストーリー

アイデアをビジネスプランに昇華させる

2012年に大手生保から転職してきた和田が「ATM受取(現金受取サービス)」のアイデアを初めて耳にしたのは入社直後のことだった。
「当時、まだ大まかな構想段階でしたが、上司から聞いた瞬間“これは面白い!”と膝を打ちました。セブン銀行の強みを活かせる、素晴らしい商品性があると思ったんです。」
以来、和田は常にプロジェクトの進捗を気にかけつつ、自らも参画するチャンスをうかがっていた。どんな事業もそうだが、いくらアイデアが素晴らしくとも、それをビジネスという枠組みに完成させるにはいくつもの山を越えていかなくてはならない。コストはその中でも最も大きな山だった。安全性を担保しつつシステム投資額を抑えるようにという経営陣からの指示は、プロジェクトメンバーを大いに悩ませていた。それを解決するために、社内でATM開発に携わっていたATMソリューション部が出した案が、クラウド基盤を利用するというものだった。従来の金融業界の常識では考えられないこの挑戦により、プロジェクトは大きな山を乗り越えることができたのである。
和田は、そうした状況を横目で見ながら参画のチャンスをねらっていたわけだが、入社5年目の2017年にとうとう上司から「ATM受取(現金受取サービス)」プロジェクトの担当を命じられた。
「望むところだ」
和田は熱い野心を胸に、プロジェクトに参加することになった。

プロジェクトストーリー

潜在的ニーズの掘り起こしに挑む

プロジェクトに参画した和田は、早速動き始めた。その時点で「ATM受取(現金受取サービス)」の方針はほぼ固まっており、和田にはマーケットにどう受入れてもらうか、その可能性を探るためにニーズの掘り起こしというテーマが課せられた。
「セブン銀行はそれまで600社を超える金融機関等と提携してきました。しかし『ATM受取(現金受取サービス)』を使っていただくのは金融機関ではなく、幅広い業界の法人です。そこで、新しいお客さまにどんな価値を提供できるのか、探ることにしました。」
精力的に動き始めた和田は短期間に100社近くの法人を訪ね、「ATM受取(現金受取サービス)」に対するニーズを探っていった。それらのほとんどはこれまでコンタクトをしてこなかった法人である。まずは、当該企業のホームページを見て問合せ先にメールを送るという、正攻法での営業を試みたが、門前払いされることはほとんどなく、多くの企業が「話を聞きたい」と前向きな答えを返してくれた。
「セブン銀行というブランドに対する信頼感の表れだと思う」と、和田は振り返る。

子会社の誕生、そして社長就任

プロジェクトには、事業主体をどうするかという課題もあった。いくつか案があったが、最終的には新しいサービスのために子会社を設立し、事業の自由度を担保するためにもセブン銀行100%出資とした。若い社員たちが誰にもじゃまされずに自分のチカラをフルに発揮できるようにするという、セブン銀行がもつDNAのような精神であった。
その子会社の社長には、和田が就任することになった。
「必ず成功させてみせる」との強い決意で、和田はその辞令を受取った。

  • プロジェクトストーリー
  • プロジェクトストーリー

金融業界の常識を打ち破る

引続き和田は、EC(電子商取引)事業を展開する企業を中心にニーズの掘り起こしを進めた。
例えば、個人が空き時間に副業をして収入を得るというビジネスを展開する企業は、より簡単に報酬を支払えるようにしたいと望んでいた。あるいは銀行口座を持てない外国人労働者を雇用する際、生活支度金を払いたくてもその方法がないことに苦慮している企業もあった。
一方で、企業側からのアプローチもあった。人手不足に悩む建設業界に対して、工事現場と職人の効率的なマッチングを実現するアプリを提供している企業があり、同社からその工事代金の支払いにセブン銀行のATMを利用できないかと相談を持ちかけてきたのである。まさに「ATM受取(現金受取サービス)」にうってつけのビジネスモデルとの出会いだった。
こうした取組みを通じて和田は「金融業界の常識は他業界の非常識」という発見もした。
「金融業界は、情報保護を徹底します。しかし、他業界の視点からは“そこまでしなくてもいい情報もある”ということになる。行きすぎた情報保護で使いづらいシステムになってはせっかくの利便性が犠牲になってしまうというわけです。この発想は新鮮でした。」
そうした声は開発サイドにフィードバックされ、システムの軽量化が図られた。

VISION

静かな立ち上がりに成功を確信

2018年5月2日、「ATM受取(現金受取サービス)」のスタートがプレスリリースされた。このリリースには、同時にサービス利用が始まる企業の名前も一緒に掲載されていた。和田が仕込んだ戦略的な仕掛けだった。
「“同業のあの会社が利用するなら当社も検討したい”という意識が生まれることを狙いました。その反響は予想以上で、手応えは十分でした。」
もちろんその仕掛けができたのは、ニーズを探るために早い時期から多くの企業とコンタクトをとり続けた積み重ねがあったからだ。
そして5日後の5月7日、いよいよ「ATM受取(現金受取サービス)」がスタートする。何のトラブルもなく、その立ち上がりは静かなものだった。
「構想から5年、やっと世に送り出せたという感慨はありました。しかし、特に華々しい出来事もなく、インフラサービスの立ち上がりというのはこんなふうに地味なものなんだと改めて感じました。」
その言葉通り、和田をはじめとするプロジェクトメンバーの中には達成感のようなものはまだない。今まで世の中になかった「ATM受取(現金受取サービス)」という新しいサービスが、いつか社会の中で当たり前のように利用される日がきたとき、ようやく達成感を得るのだろう。
その意味でも、今はまだ道半ば。サービスを社会に根付かせるため、和田たちの取組みは続いていく。
「セブン銀行には、野心ある若手に新しいことをチャレンジさせようという風土があります。そんなチャンスに、物怖じすることなく“やってやろうじゃないか”と目を輝かせてくれる人材を待っています。」

※記事内容はすべて取材当時のものです。