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パーパスの浸透と実践 ~全社員との対話を通じて

社長に就任して1年が経ちました。振り返ってみると、さまざまな気づきがあり、そこに新たな課題を発見することもあれば、当社の強みを再認識することもありました。我々は創業以来22年あまり、お客さまの「あったらいいな」の想いに応え、常識に捉われることなく常に挑戦を繰り返し、新しいサービスを生みだし続けてきました。しかし、時代は加速度的に変化しています。我々が、お客さまの期待を超えるサービスを生みだし続けるためには、より一層イノベーションが必要です。そのためには、「金融という枠を超えて、身近にある多様な社会課題に向き合い、その課題解決に貢献したい」という強い想いを持つことがとても大切だと考えています。

こうした想いを社員と共有できたらと思い、この1年間、60回近く、毎回6~7人の少人数の社員と「タウンホールミーティング」を行い、500人以上の社員と対話してきました。その中で、当社のパーパスを具体的に日々の業務にどう反映しているのか聞いてみると、社員からはこちらの想像を超えたアイデアや事例が出てくることが多く、所属する部門に関係なく、誰もがパーパスの実現を目指し、自分たちの業務で何ができるかを真剣に考えてくれていることが伝わってきました。こうした事例を社員全員で共有して刺激にしてほしいということから、2022年度末に「パーパスアワード」という社内イベントを実施しました。我こそはパーパスの具現化を実践しているという取組みを全部署から募り、最終審査は全社員投票で決めるという社員参加型のコンテストです。全部署・子会社から47の取組みのエントリーがあり、全社員投票で上位3組を選出しましたが、どれも甲乙つけがたく審査する方も大変苦労しました。こうした取組みを通じて、パーパスの理解浸透から実践フェーズへと進め、全社員がパーパスの実現に取組むことで、さらなる成長にしっかりとつなげていきたいと考えています。

2022年度の振返り

2022年度の業績は、連結の経常収益が1,549億円、経常利益が289億円となり、特に経常収益については過去最高を記録しました。セブン銀行単体では、経常収益が1,205億円、経常利益が315億円となり、経常ベースでは連結・単体ともに増収増益となりました。

まず、ATMプラットフォーム事業については、ATM設置台数は概ね計画どおりとなり、セブン&アイグループ以外への設置や地域金融機関の代替ニーズへの対応が主な要因となっています。また、ATM総利用件数においても約9.8億件となり、1日1台当たりの平均利用件数は101.5件と久々に100件台へ回復しました。新型コロナウイルス感染症の収束に伴う人流回帰によるところが大きく、従来の預貯金金融機関による現金の入出金だけでなく、電子マネーやスマホ決済事業、地域通貨への現金チャージ、訪日外国人による海外発行カードのご利用の増加などにも波及しています。

次に、国内リテール事業については、預金口座は275万5,000口座、残高は5,756億円と、口座数・預金残高ともに伸長し、さらにローン残高は前年比プラス約25%と大きく伸びました。個人の消費行動がより活発化してきたことやそれに応じたSNSなどでの積極的なマーケティング活動を展開してきたことによるものと考えています。

そして、海外事業はアジアを中心に拡大が続いています。米国では、少額の現金ニーズに応える与信サービスの実証実験やATM内の資金運用のさらなる効率化など、さまざまな取組みを進めております。インドネシアは、2022年度末(2022年12月末)で5,557台まで設置台数が伸びており、今後もしっかり採算性を確保しながら、利益を拡大していきます。フィリピンは、同2,324台となり、利用件数も順調に伸びています。また、キャッシュリサイクル機(紙幣還流式ATM)を入れている関係でコストがやや高いこともありますが、それを活かした売上金入金サービスを検証するなど、早期の黒字化を目指していきます。

中期経営計画の新たな展開

2025年度中期経営計画の達成に向け、3年目となる今年はちょうど折り返し地点で、いくつかの案件が具現化してきたと思っています。基幹事業であるATMを進化させ、さらなる成長領域の拡大を進めることで、国内事業の多角化を加速していきます。大きな柱となるのは2つ。一つは、ATMの新たな価値提供となる「あらゆる認証・手続きの窓口」のサービスです。もう一つが、セブン・カードサービスの連結子会社化などによるリテール事業の高度化です。

一つ目のATMの新たな価値提供ですが、現在、さまざまな金融機関において、業務効率が今まで以上に求められ、レギュレーション対応が必須となる状況が迫っています。そのため、2019年より実証実験を行ってきた、我々の第4世代ATMの機能を活用したサービスの提供を、いよいよ2023年9月より本格的にスタートさせます。すでに社会インフラとして定着している当社ATMを、本人確認を伴う諸届や手続きの窓口として活用することで、金融機関・事業会社の業務効率化だけでなく、お客さまの利便性や満足度の向上にもお役立ていただけると考えています。当社のATMが「あらゆる認証・手続きの窓口」となることで、「近くて、便利に手続き可能な世界」を実現できるように進めてまいります。

二つ目のリテール事業の高度化には、テクノロジーの進化、フィンテック企業の登場、金融サービスの多様化、世界的な金融政策の変動などさまざまな金融サービスの環境変化が背景にあります。こうした中、従来の垣根を越えた、「小売×金融」としての新たな体験価値を創出するため、セブン・カードサービスの子会社化を実施することにしました。約2,800万人の会員数を誇る7iD会員データを軸として、バンキング事業・ノンバンク事業の双方が持つアセットを融合させながら、リアル・デジタル両面でのマーケティング活動を通じて、購買活動における決済や与信、小売視点の資産運用など、お客さまの生活に密着した、「小売×金融」発想の新たなサービスを提供することを目指します。

2025年度財務目標については、経常収益は当初予定であった1,700億円を2,500億円とし、経常利益は350億円から450億円とします。中長期を見据えた成長投資と資本効率のバランスを見極め、ROE8%以上、配当性向40%以上の目標は継続します。主力事業である国内ATMプラットフォーム事業は、さまざまな機能強化を実行することで引き続き安定した収益基盤とし、金融サービスの領域を拡大する国内リテール事業、さらなる成長が期待できる海外事業、さらには社会的ニーズが高まる法人サービスも含め、バランスのとれた事業ポートフォリオを構築しながら、2025年度の財務目標の達成に向けてしっかりと取組んでまいります。

持続的成長を支える経営基盤の強化

こうした成長戦略を実践するためには、個人も会社も成長する組織づくりが何よりも大事だと考えています。当社をチャレンジフィールドに、全社員にイノベーションマインドを持ってもらうため、社員の意識改革や人材育成、エンゲージメントの向上に注力しています。

具体的には、「EX10(エクステン)」。これは自主的なイノベーション活動を推奨するものです。現在の業務に直結しなくても、将来的な会社への貢献やスキル向上に自分の業務の10%をあてる制度です。また、「SEVENBANKAcademia」は自らの挑戦マインドを醸成するもので、外部のコミュニティとつながることや新規事業創出のメソッドを手に入れる活動になります。これらを含めて、人材・組織・企業変革を継続していきたいと思います。

一方、「DMO(Data Management Office)」の開設により、日常的にデータを活用できる土壌づくりとカルチャーづくりが定着しつつあります。これは現在、200人以上が参加するコミュニティにまで成長しています。さらに、「金融データ活用推進協会」へ参画し、AI・データ活用について外部と連携を深め、スキルセットの習得、個人の意識改革、ビジネスモデル自体の変革にも取組んでいます。また、ビジネス面でも「新規事業創生プログラム(アクセラレータープログラム)」を通じ、スタートアップ企業や異業種との連携を深め、オープンイノベーションを促進しています。

こうした取組みは、すぐにトップラインとして数字に示すことができないのですが、これらの行動自体が我々のカルチャーであり、パーパスの実現につながっていくものですので、こちらも手を抜かず、しっかり推進していきたいと思います。

私は常々「共感」という言葉を社員に伝えています。共感は「認知的共感」と「情動的共感」があり、前者は他人の立場に立って物事を考える、後者は他人の感情を自分のものとして捉えることで、両者をバランスよく活用し、「あったらいいな」を超える商品・サービスを生みだし新しい未来が生まれることにつながると話しています。

環境・社会のサステナビリティを推進

私は当社の創業時からのメンバーであり、ATMを主軸としたビジネスモデルで成長してきたこれまでのあゆみに深く関わってきました。その中で実感していることは、グループ会社をはじめ、提携金融機関・事業会社やATMの開発、オペレーションに関わる取引企業、さらにオープンイノベーションの協業先など、実に多様なステークホルダーにご支援いただきながら現在に至っているということです。

当社では、2019年度より、持続的成長の実現に向けて、5つの重点課題を掲げ、全社的な取組みを推進していますが、本業を通じた社会課題の解決には、多様なステークホルダーとの協働が欠かせないと考えています。

例えば、「安心・安全な決済インフラの提供」には、止めないATM運用を支える事業パートナー、「新しい金融サービスを通じた生活創造」には、ATMでの募金先に登録していただいた5団体、「環境負荷の低減」では、消費電力40%削減を実現した新型ATMの開発メーカーやATMの約100%リサイクルを実施する事業会社など、さまざまな企業と協働しながら、より大きな社会課題の解決に取組んでいます。

これからも多様なステークホルダーの皆さまとともに、環境・社会のサステナビリティを軸とした事業活動を実践し、SDGs達成に貢献してまいります。

私は、当社を「テックスタートアップ」だと思っています。それは、「過去の成功体験を捨てて、常識を疑い、世の中を変えていきたい」という想いからです。圧倒的な社会インフラであるATMを活かし、社会全体のDX化を推進するとともに、セブン&アイグループの国内各店舗に来店される1日約2,220万人のお客さまに、便利で安全性の高いユニークな金融サービスを提供したいと思っています。

こうした想いとともに、今回アップデートした中期経営計画に沿って具体的な戦略を遂行することで、第2の成長を軌道に乗せ、さらなる持続的成長と企業価値の向上を目指し、これからも引き続きパーパスの実現に取組んでまいります。

株式会社セブン銀行代表取締役社長

松橋正明