2026.4.15
やさしい日本語で変える。セブン銀行が挑む、翻訳に頼らない“言葉のユニバーサルデザイン”
誰一人取り残されないデジタル社会づくりを目指すセブン銀行では、ATMの一部画面に「やさしい日本語」を導入しました。
正確性が求められる金融機関が、なぜ「堅い言葉」をあえて崩したのか。その背景にある「言葉のユニバーサルデザイン」への挑戦について、「やさしい日本語」の第一人者の吉開 章さんと開発担当者に聞きました。
目次
やさしい日本語とは?多言語対応の限界を超えた解決策
―「やさしい日本語」とは何か、改めて教えてください。
吉開:「やさしい日本語」とは、外国人や手話を第一言語とする、ろう者のように日本語を母語としない人など、日本語特有の難しい表現にハードルを感じるすべての人に配慮した日本語表現です。1995年の阪神・淡路大震災を機に、災害時、情報を迅速に伝える手段として行政を中心に研究、普及が始まりました。
正確な定義はないものの、単なる子ども向けの言葉ではありません。使う言葉や文法を制限し、日本語を母語としない方にとって、できるだけわかりやすい形で情報を伝えるのが基本的な考え方です。
―なぜ今、やさしい日本語が注目されているのでしょうか。
吉開:社会が変化する中で、「すべての言語に翻訳する」ことの限界が見えてきたからです。今は、「外国人向けの特別な支援」ではなく、「誰にとってもわかりやすい設計」として広く捉えられるようになっています。
やさしい日本語ツーリズム研究会 代表 吉開 章さん
―多言語対応との違いはどこにあるのでしょうか。
吉開:端的に言うと、比較的かんたんなことを広く伝えるのに向いているのが「やさしい日本語」、重要事項や複雑な情報などやさしい日本語では対応が難しい場合に各言語に翻訳するのが多言語対応です。
以前から、日本に住む外国人に伝わりやすいのはやさしい日本語だということがわかっており、日常的なことは、やさしい日本語で十分に伝えられます。
ただし、医療や司法など、命や人権に関わる場面では通訳を伴う多言語対応が不可欠です。やさしい日本語で広くカバーし、本当に必要な部分だけを多言語で補うことで、合理的な設計が可能になります。
―セブン銀行ではすでに多言語対応を進めていましたが、その中で今回やさしい日本語を導入した背景を教えてください。
鶴見:セブン銀行ATMは、セブン銀行キャッシュカードでのお取引きの場合は9言語、海外で発行されたカードのお取引きでは12言語に対応しています。
しかし、情報変更などの手続きは、これまで日本語と英語でのみ対応していました。すべてを多言語化しようとするとシステム改修の規模が膨大になります。
そこで、「言語を増やすのではなく、日本語そのものをわかりやすくする」というアプローチなら、より早く、かつ実効性をもって提供できるのではないかと考えました。
ATMソリューション部 ATM開発グループ 鶴見 晨太朗
―社内からの反応はいかがでしたか。
鶴見:当社ではもともと年齢や国籍を問わずすべてのお客さまが使いやすいよう、『アクセシビリティの向上』に注力してきました。その一環として、言葉の壁が生じやすい外国人の方に向けた手続きの利便性向上も進めていました。そのため、「翻訳ではなく日本語の調整」という新たなアプローチについても社内の理解を得やすく、実装までは比較的スムーズに進みましたね。
やさしい日本語の実装で直面した壁。正確さとわかりやすさをどう両立するか
―今は「在留カードを用いた本人確認」のフローのみに導入されていますが、この範囲に絞ったのはなぜでしょうか。
鶴見:お客さまの離脱やつまずきが多い工程だったためです。在留カードを用いる操作のため、お客さまの大半は日本語を母語としない方。操作の難易度の高さと、公的手続き特有の言葉の難しさゆえ、お客さまが困惑しやすい状況でした。そこで、困っているお客さまへの対応を一刻も早く行えるよう、まずは社内開発のみで着手できる範囲に絞り、今回の実装を行いました。
―公的手続き特有の「堅い言葉」を、やさしい日本語に置き換える際、どのような点を意識しましたか。
吉開:銀行の手続きにでは「正確性」が非常に重要です。そのため私からは、「名詞は無理に言い換えなくていい」とお伝えしました。特定の制度名や手続き名は、意味を変えないためにそのまま残し、必要に応じて説明を補うという考え方です。
一方で、漢字の熟語の動詞は可能な限り簡単な和語への変更をご提案しました。「記入します」は「書きます」、「署名します」は「名前を書きます」と言い換えることでわかりやすくなるからです。
征矢野:開発現場でも動詞の見直しには特に時間をかけました。
「正確に伝えたい」という思いと、「わかりやすさ」の間でバランスを取る必要があったからです。
例えば「読取る」という表現は、日本語では自然ですが、二つの動詞が組み合わさった「複合動詞」であり、日本語を母語としない方にとって理解しづらい場合があります。
そこで思い切って「読む」に変更しました。日本語ネイティブには少し違和感があるかもしれませんが、細かいニュアンスではなく、何をすればよいかが伝わることを優先して調整しました。
ATMソリューション部 デザインチーム 征矢野 里奈
吉開:日本語には「書き込む」などの複合動詞が多数あります。ニュアンスを豊かにする書き方ですが、極めてバリエーションが多く、教科書にも出てこないことから、日本語が母語でない方にとっては負担になることもあります。
ただ、すべてを一律に言い換えればよいわけではありません。変えることで不自然になる場合や、制度上そのままにせざるを得ない言葉もあります。複合動詞の言い換えに正解はないので、どこまで変えるかを判断するのは難しかったと思います。
―画面設計で難しかった点はありましたか。
征矢野:ATMという限られた表示スペースで、どこまで説明するかは最後まで検討を続けました。元々の手続きフローでは、言葉だけでなくイラストやアニメーションを使用してビジュアル的にも理解できるように設計されていました。今回それらを活かし、イラストで見た方が分かりやすいものはそちらで説明する、というように役割を明確にすることで、言葉で説明すべき情報の取捨選択を行っています。
やさしい日本語は本当に伝わるか? 実際の声から見えた課題
―伝わるかどうかのテストはどのように行われましたか? テストを経て気付いたことはありましたか?
征矢野:8名の外国語話者の方にご協力いただき、実際にATMを操作したうえで、その行動の分析や画面のわかりやすさと操作のしやすさについて意見をいただきました。
その結果、「ルビがあることで、言葉の読み方と意味が理解できる」などポジティブな意見をいただいた反面、「身分証明書のイラストが、実物と少し違うだけでも戸惑いやすい」「上の画面や案内に気づきにくい」など、言葉以外の部分でも課題が見えてきました。
鶴見:開発側が良かれと思って実装していた説明が、かえって混乱を招いていたという発見もありました。例えば、予告的に表示していた次のステップで行う操作を、「今、しなければならない操作だ」と混同してしまう方もいました。
征矢野:「日本語と英語の両方を読んで理解している」という外国語話者の方が多いことも新しい気付きでした。そういった方はどちらか一方だけを見るのではなく、二つの言語を行き来することで内容を補完し合いながら理解していました。
吉開:英語と、振り仮名付きのやさしい日本語が並んでいる状態は、いわば動画の字幕のような効果があります。アジア圏の方には英語より漢字のほうが意味を理解しやすい場合もあるので、テストを経てたどり着いたこのデザインと、改善をやり切ったセブン銀行さんの姿勢は、お手本にしたいアプローチだと思いました。
言葉の壁を越え、誰もが使いやすいインフラへ
―ATMにやさしい日本語を導入する意義をどのように捉えていますか。
征矢野:当社ではこれまでも、誰でも見やすいフォントや配色、車椅子の方でも操作しやすい画面位置など、さまざまなユニバーサルデザインに取組んできました。「言葉のユニバーサルデザイン」としてやさしい日本語を導入することで、日本に住む外国人の方の自立を支えることができれば嬉しいです。
吉開:言葉も整えることで、セブン銀行さんのインフラとしての価値が一段と高まったと感じます。これからの社会は、言葉への配慮が、スロープや点字ブロックのように当たり前のものになっていくべきだと考えています。今回の取組みは、多文化共生社会の実現を力強く後押しするものだと思います。
―今後の展望を教えてください。
鶴見:今回は在留カードの本人確認から始めましたが、今後は海外送金や電子マネーのチャージなど、日常的な取引きにもやさしい日本語の選択肢を広げていきたいです。
将来的には、高齢者やデジタルが苦手な方も含め、お客さまが自分の目的に合った言語や表現を自然に選択できる環境を目指したいと考えています。言語のことはもちろん、ATMを「社会で最もやさしいデジタルチャネル」にすることを目指していきたいです。
やさしい日本語ツーリズム研究会 代表
吉開 章さん
2016年「やさしい日本語ツーリズム」企画を故郷の柳川市で実現。
2023年一般社団法人やさしい日本語普及連絡会を設立し代表理事に就任。
やさしい日本語の社会普及に尽力中。メディア掲載、講演多数。
※記事内容は公開時点での情報となります。サービス等の最新情報はセブン銀行ホームページにてご確認ください。
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